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STORY

 スペースバンク

 

        
「じゃあ、おやすみ~」
         
布団に入って、目を閉じると、
いつのまにかそこは宇宙空間。
        
 「ここはどこだ?」周りには、
たくさんの惑星がある。
         
前にも、横にも後ろにも、
360度宇宙が広がっている。
         
「ああ、これは夢だな」と思った途端、
妙にハイテンションな男の声が聞こえた。
          
「ヨウコソーーー!!イラシャイマセね~~~!!」
         
「??」

周りを見回しても誰も見えなかったが、
なんとヤツは上から降ってきた。
         
          
「アチョーーー!! ヤッ!!」

かなり高速で飛んできて、着地(?)して、
 (宇宙だから地はないんだけど・・)
変なポーズを決めた。
         
うまく決まったらしい。
なんだか得意気だ。
         
緑色のスーツみたいなのを着て、
あちこちに派手なバッチをつけて、
シルクハットをかぶって、
ピエロみたいなお面をかぶってる。
         
明らかにおかしい。

でもまぁ夢だし、これもありかな、
とか思ってると、
          
「スペースバンクへ、ヨウコソ!!」と、
彼は回転ジャンプしながら言った。

         
 「はぁ?」

気付くと、すぐ後ろにとてつもなくでっかい建物があった。
         
神殿みたいな作りなんだけど、
カラフルなライトがピカピカしてて、
センスがいいのか悪いのかよく分からない。
          
「中へドウゾ~~~」

案内されるままに、
入り口から建物の中へ入っていった。
         
コツコツ足音が響く。

そしてドアを開けると、
その中はなんだか華やかな色彩のホールみたいなところで、
意味のわからない機械がたくさん並んでいる。
        
 「・・で、これはなんですかね?」

と俺は冷静に聞いてみた。
          

「ココはスペースバンクでぇぇーーっす!!」
         
「バンク・・ってことは銀行??」
          
「イェエエエーーーッス!!!」
         
「おれはなんでここに来たのかな?」
          
「シリマッセン!!!」 

ちょっとこけそうになった。
         

そうか、ヤツも知らないのか。
まぁいいや、夢だし。
         
          
「セッカク、スペースバンクに来たンデスカラ、
チョットゆっくりシテイッタラ、ドウですか?」
         
「そうだな。ま、せっかく来たし・・」
         
そう言って、
しばらく俺はなぜかヤツと見つめ合った。
         
沈黙・・。

するとヤツがぼそっと言った。
          
「アナタ借金イッパイデスね」
         
「ええぇっ?!」
          
「27,490,864,907Э・・」
         
「そのわけのわからない単位はなんだ?? 
ってかその前に俺、借金とかしてないし!!」
          
「アナタ何もシラナイデスね」
         
「し、知らないなぁ、
ああ、知らないともさ!!」            
         
夢だと言うのにちょっと動揺してしまった俺は、
心なしか強気になってしまった。
         
逆ギレ?

          
「デハアナタに説明イタシマス」
そいつはいきなり変な丁寧口調になった。
         
なんだ?仕事モードか?
          
「アナタまず生まれたトキ、
肉体借りるタメに借金シマシタ。12,305Э」
         
「はぁ?? 肉体??」
          
「ソレカラ、タクサン借金し始めマシタ。
特にオオキカッタのは・・、
           
五歳の時、クリスマスのプレゼントに 
絶対ガンダムのゲーム欲しいッテ、
イイマシタネ。ソノ時、6,127Эの借金。
           
次の年ハ、
プレゼント何でもイイって言ったカラ、
借金はナシでしたネ」
        
「欲しいって言ったら、借金になるの??」
         
「七歳ノ時に、
オバアチャンに肩タタキシマシタね、
これでガンダムの分は借金返済デキテマス」
         
「いいことしたら借金返済になるってわけ?」
          
「高校受験、
絶対受カリタイって神社二お参りシマシタね」
         
「そりゃするでしょう、普通。
絶対受かりますようにって」
          
「ソレデ8,992Эノ借金デス」
         
「はぁ??願っちゃだめなの?!」
          
「望むノハ無料デス。
デモ、求めたら借金にナリマス」
         
「俺、借金したから受かったの?」
          
「ソウデス」
         
「求めよ、さらば与えられんって言うじゃん?!
求めるから夢は実現するんだろ!」
          
「ハイ、求めれば、与エラレマス。
デモ借金多すぎタラ、願いごとは却下サレるコトもアリマス」
         
「えぇぇ・・」
          
「求メて得た成功もお金も名誉も、
高額ナ借金になるのデスヨ」
         
「どうやったら、借金返済できるわけ?
あ、いいことするんだっけ? 
無償の奉仕ってやつ?」
          
「ハイ。他人に迷惑をカケズ、
喜びと感謝のココロで生きていくダケデモ返済デキマス」
         
「へー・・」
          
「掃除をシタリ、人や動物や植物を大事にスルコトモ 返済にナリマス」
         
「なるほどねー」
          
「借金返済を続けておこなって頂いた際ニハ、
           
コチラカラ、サービスを差し上げるコトもアリマス」
         
「サービスって? あ、もしかして、
求めてないのに、与えられたときってサービスなの?」
          
「ソウデス。求めタラ借金にナリマスが、
求めていなくてただ"望んでる"場合、
その物や出来事を差し上げるというサービスをすることがアリマス」
         
「求めずに望むっていうの、難しいな」
          
「ホシイけどナクテモ幸せと思えて、
楽しい気分で夢見るコトが"望む"とイウコトデス。
ドウシテモ手に入れたいト思って、
手に入れられないと不幸にナルヨウナ状態は"求めている"コトにナリマス」
         
「なるほどね~。
俺、野球選手になりたいって夢見てたけど、
あれは、ほわわんって思い浮かべるだけの幸せな夢だったもんな~。
          
でも、受験の時は、絶対に何がなんでも受からなきゃ!!って思ってたからな~。
          
この高校じゃなきゃ嫌だ!!って思ってたからな~」
          
「求めナクテモ、アナタにトッテ、
一番最適な高校が 選ばれるコトニなってマシタヨ」
         
「そうなんだ?! 
あの高校じゃなくても別によかったんだ?」
          
「ソウデス。心配シナクテモ、
一番最適な物が与えられるようにナッテいるンデスヨ」
         
「求めずに、ただ与えられたものに素直に従っていけばよかったのか・・」
          
「借金があまりに高額にナリスギルト、
強制的に返済してモラウコトニなりますヨ」
         
「え・・」
          
「失敗や挫折、苦労、悲しみ、
事故、病気など与えますヨ」
         
「げ~っ」
          
「ソレ乗り越えると借金大きく返済デキマス。
しかも感謝のココロにナルカラ、
預金もデキるチャンスデス」
         
「借金がゼロになれば、
預金も出来るってわけね。
          
あ、預金たくさん貯まったらどうなるの??
ね、宝くじでも当てさせてくれるの?!」
          
「私タチ、スペースバンクの社員みんなで、
パーティーするんデス♪」
         
「はぁっ???じゃ、俺関係ないんじゃん!」
          
「預金タクサン貯めてくれるコト、
ワタシタチにとって、この上ないヨロコビ。
          
ダカラ、ワタシタチ、
嬉しくてパーティーシマス」
         
「そうなんだ・・。
で、預金してくれた人にはサービスとかは・・??」
          
「ソレモ、モチロンしますヨ」
         
「そっか、よかった。
っていうか、それにしてもさー、
成功するってあんまりいいことじゃなかったのね」
          
「ソレハ違いますヨ。成功するコトは悪いコトじゃないですヨ」
         
「へ? だって借金増やしちゃうってことなんでしょ?」
          
「求めずに、望めばいいんですヨ。
望みをもったまま、借金返済ガンバッタリ、
預金を増やしてればジキに成功デキマス。
求めて成功したとシテモ、謙虚なココロで、
世の中のタメに役立てば、ドンドン借金返済デキマス。
大きく成功すると、
高額返済もしやすくナリマス」
         
「そっかー・・。
成功自体は悪いことじゃないんだな、
よかった。


感謝の心持ってるだけで借金返済できるなんてラッキーだな。
心がけてみよっかな。
          
借金させてもらったおかげで
今の高校にも行けたし、
部長にもなれたんだろうしね」
          
「ソウデス。大きな怪我で、プロ野球選手にはなれなくなったケド、
           
あの時、アナタ大きく借金返済シマシタヨ」
        
 「・・・あの時は死ぬほど辛かったね。泣きまくったし・・。
  人生の終わりだと思った・・。
でも、あの怪我がきっかけで今の彼女と付き合えたし、
学んだことたくさんあったしな。
 良かったって思ってる、マジで」
          
「今またアナタ、借金返済できましたヨ。
  27,490,861,025Эにナリマシタ。
オメデトウゴザイマス」
         
「あぁ~? どんだけ減ったかわかんねーけどよ・・。ま、でも色々分かったよ。
ありがとな」
          
「コチラコソ、アリガトウゴザイマシタ! 
いつでもまたおこしクダサイ。
           
アチョーーー!! トゥッッ!!!」
         
        
 ヤツは天井つきぬけて飛んでいった・・と思ったら、
        
 そこにはもう天井はなく、
大きな宇宙が広がっていた。
         


そして気付くと、俺はベッドの中。
窓から朝の光が差し込んでいる。
         
「・・スペースバンクか」
         
         
寝たまんま大きくのびをして、
えいっと起き上がった。
         
窓を開けて、さわやかな風を思いきり受けた。

目を閉じて、息を大きく吸い込んだ。
         
エネルギーが体いっぱいにみなぎっていくのを感じた。
         
息を吐きながら、
しっかり目を開いてまっすぐ前を見た。
         
情熱が湧き上がってくる。
胸が熱い。
         
心の中で俺は叫んだ。
        
 「借金はやく返済して、
いっぱい預金してやるぞーー!!!」
         
これからは何も求めず、
与えられたものを素直に受け止めて、
         
感謝して、思いきりそれを楽しんで、
そして大事に味わって生きていく。
         

希望を持って夢を見よう。
楽しい気分で夢を見よう。
         
叶っても最高。
叶わなくても、きっと幸せ。
         
そんな心の余裕を持って、
毎日楽しく、幸せに生きていきたい。
          

これから先、何が起こっても、
何が与えられても、
それは俺にとって、最適なことなんだよな。
         

じゃ、気楽にいこ。
すべてお任せコースで、
鼻歌でも歌いながら夢見て生きてこう。
         

今、手にしてるもの、
目の前にあるものが、
俺にとって最善だと判断されて与えられてきたものたちなんだ。
         

結構いろんなもの手にしてるんだな、俺って・・。
恵まれてるかも、かなり。
         

なんともいえない幸せな気持ちが、
心いっぱいに広がった。
         

感謝の心で体がしびれそうになった。 
目を閉じて、その感覚を味わった。
         


「借金返済アリガトウゴザイマーース!!!」
         

アイツのハイテンションな声が、
どこかからかすかに聞こえた気がした。

 ふしぎなお話 第一話

 

 

 あるところに、仲良しな三人の中学生がいました。
        
 愛(あい)ちゃんは、裕福な家庭で育った優しい女の子。
 とっても優しいパパとママが自慢です。
        
 良心(りょうしん)くんは、サッカーとゲームが大好きな男の子。
 彼の家族はかなり厳しいらしく門限は六時です。
        
 幸(ゆき)ちゃんは、孤児院で育った女の子。お花や動物が大好きで、
 お料理も得意です。
         
        
 ある日、三人は学校の帰り道に受験の話をしていました。
        
 「もうすぐ受験だね~~。あーー神様!第一高校に受かりますように!!」
        
 「愛ちゃん、空に向かって言わないとダメだよ~。神様はお空にいるんだよ?」
        
 「えっ、そうなの?? 神様はお空にいるものなの?」
        
 「そうだよ、どこにいると思ってた?」
       
 「え~~、あんまり考えたことなかったな~~~。

  どこか、って感じ。宇宙とか・・?」
       
 「良心くんはどう思う??」
 
 「俺は、神様は自分の中にいると思う!」
       
 「へーー! 自分の中?!」
        
 「そう、俺、ときどき自分の中に神様を感じるもん」
        
 「どんなとき??」
       
 「超かなしいことがあって、最悪なときにさ、なんか小さい神様が俺の中で、
  一生懸命、希望とか元気をつくったりするんだよね」
       
 「へーー」
       
 「それに、俺って神かよ?って思うくらい、すごいことひらめく時もあるしさ」
       
 「あはは」
       
 「ほんとだって! でも、まぁ普段の俺は全然すごくないし、

  俺の中にいる小さい神様のおかげだなって思うわけさ。
          

  すげー困ってて、神様お願い!って思ったとき、
  すんごいことひらめいたりしたんだよ。助かったよホント」
        

 「なるほどねーー」
        

 「神様って自分の中にいるのかなー」
       

 「お空だよー絶対」
        

 「自分の中だって!!」
        

 

 「よし、先生に聞きにいってみよっか!」
        

 「うん、そうしよう!!」
        

 

 三人はもう一度学校へ戻りました。
        

 先生はいつものように、柔らかいひげをなでながら、

 優しい微笑みで三人を迎えました。
        

 

 

 「先生!神様ってどこにいるんですかーー?!」
        

 「お空ですよねー!!」
        

 「自分の中にいるんですよねー!!」
        

 「あはは、そんな話をしていたのかね」
        

 「そうなんですよ!
  あたしは宇宙のまんなかとかにいると思うんですけど・・たぶん」
         

 

 「そうだなぁ・・ 先生はみーーんな正解じゃと思うよ」
        

 「え??」
        

 「みんなの中にいるし、お空にもいるし。

  お空ということは宇宙とも言えるじゃろ。
  お空と宇宙はつながってるんじゃからな」
        

 「えーー??じゃあ、神様は一体何人いるんですかーー??」
        

 「一人ですよねーー??」
        

 「ひとりひとりの中にいるんだったら、何億っているんじゃないの?

  もっとかな~~」
        

 「ははは、どちらも正解じゃな」
        

 「????」
        

 「先生、全然わからないよー」
        

 

 「良心くん、君は大きい自分の中に、

  小さな神様がいると思っているようじゃね」
        

 「はい、先生」
        

 「実は、その小さな神様と思っているのが、本当の良心くんなんじゃよ」
        

 「え~~~~?! 俺って神様なの??? じゃあ、この今の俺はだれ??」
        

 「それは良心くんの分身。もうひとりの良心くんじゃ。
  でも、本当の良心くんはその神様なんじゃよ。
  小さい自分の中に、大きな本当の自分がいるんじゃよ」
        

 「俺が今、俺って感じてる自分は、小さな分身。

  本当の俺は、今まで神様って感じてた部分。

  それが大きな本当の俺自身・・」
        

 「そうじゃよ。さすが良心くんは物分りが早いのぅ」
        

 「えへへ・・」
        

 「じゃあ、あたしたちは、ひとりひとりが、みんな神様??
  優しくって、正しくて、完ぺきな神様?」
        

 「そうじゃよ」
        

 「今まで、最悪なときに、一生懸命希望や元気を生み出してくれてたのは、
  俺自身だったのか・・。

  小さい未熟者な俺の分身のために、

  本当の俺ががんばってくれてたんだな・・。っ

 

   てなんか変な言い方だけど。ははは」
        

 

 「ははは、そうじゃな。

  本当の良心くんが、小さい分身の自分をじっと観察しておるんじゃよ」
        

 

 「本当の俺は、観察されてる側じゃなくて、観察してる方なのか」
        

 「小さい自分って、未熟者なんですね、先生」
        

 「そうじゃな、幸ちゃん。寂しがり屋で、傷つくのをおそれる臆病者じゃな。
  勇気がなかなか出せなかったり、人に迷惑かけても自分を守ろうとしたり、
  欲というものに流されてしまったり・・・弱い存在かもしれんな。勉強中は」
        

 「勉強中?? 勉強ってなんの勉強??」
       

  「生きることの勉強じゃよ。
   いろんな経験をして、大きな自分と同じくらい完ぺきになるために」
        

 「そっか~~~。頑張れ!分身の俺!!」
        

 「良心くんは、すぐに自慢ばっかりするから、勉強が全然足りないよーーーだ」
        

 「うるさいなーー。幸ちゃんも、すぐ怠け者になるだろ!

  勉強が足りないぞーーー」
        

 「自慢するよりマシだもん」
        

 「うるせーー。幸ちゃんは怠け者だし、それに泣き虫じゃん」
        

 「それはあたしの分身だもん!!本当のあたしは完ぺきだもん!

  ・・くすん、ひっく・・」
        

 「本当の俺も完ぺきだぜ!」
        

 「まぁまぁ二人とも・・。
  小さいあたしたちは超未熟だからさ、完ぺきな自分みたいに
  分身のあたしたちを成長させようよ! 

  修行だよ、修行、ね!先生」
        

 先生は優しく微笑んでいる。
        

 

 「本当の自分は完ぺきなのにさ、なんで勉強して修行しなきゃなんないわけ?」
       

 「そうだよー。もう完ぺきなんだからさ、何も勉強する必要ないじゃん」
       

 「勉強したくなければ、しなくてもいいんじゃよ。

  だがその代わり、苦しいことや悲しいことを避けられなくなるが・・・ 

  それでもいいのであればな」
       

 「えーー、苦しいのは嫌だなーー」
        

 「寂しいとき、愛ちゃんは楽しいかい?」
        

 「楽しくなーーい。超ブルー」
        

 「泣いてるとき、幸ちゃんは楽しいかい?」
        

 「楽しいわけないよー先生。かなしいから泣くんだよーー。
  あたし、しょっちゅう悲しい気持ちになっちゃうの。

  別に理由とかなくてもさ」
        

 

 「良心くん、自慢してるときは楽しいかい?」
        

 「うーん・・。 楽しいよ。いい気分になる。
  俺ってすごいだろ! って思わせると、すっきりするんだ」
        

 「でも、聞いてるほうは、楽しくないよーー」
        

 「・・・俺、自慢するの、本当はやめたほうがいいって、分かってるんだよね。
  でもやめられないんだ。

  俺の存在を認めてもらわないと、不安になっちゃうんだ。

 

  自慢したあと、友達に冷たくされるのなんてしょっちゅうだったし・・・

 

  やめたいって思うんだよ、なんか後味も良くないしさ

  すっきりした後、いつもなんか憂鬱になるんだよ。
  でもさ・・・」
        

 

 「素直に話してくれてありがとう、良心くん。君は素晴らしい男の子じゃよ」
        

 「先生・・」
        

 愛ちゃんも幸ちゃんも、そんなこと知らなかった、という表情で見ている。
        

 

 「先生、勉強頑張ってればさ、俺、自慢するのやめられるかな。
  自慢しなくても不安じゃなくなるかな」
        

 「もちろんじゃとも。なれるとも。いつもいつも幸せで、自信に満ちて、
  生きるのが楽しくて仕方なくなるんじゃよ。
  勉強するということは辛い気持ちから開放されていくということなんじゃよ」
        

 「つらくて、苦しい気持ちから開放されるんだ!

  あたし、いっぱい勉強したい!!」
        

 「はやく、いっぱい幸せになりたいよね!!
  完ぺきな自分になって、楽しく生きたいな!」
       

 「完ぺきな自分になってみんなに優しく生きるっていうの、俺あこがれるかも」
        

 

 「その素直な気持ちを大切に生きるんじゃよ。

  小さな自分にとらわれないことじゃ。
  本当の自分は、もっともっと大きくて完ぺきな存在だと言うことを
  忘れないことじゃ。

 

  まぁ、忘れたら、本当の自分が 思い出すように
  いろいろ助けてくれるんじゃけどな」
       

  「どうやって?? どうやって助けてくれるの?」
        

 「病気や、事故、失敗・・そういった災難に合わせてくれるんじゃよ」
        

 「全然助けてないじゃん! 余計ひどくなっちゃうじゃん!!」
       

  「大丈夫じゃよ。そういうことが起きれば、
   人は必ず本当の自分を思い出すようになっとるんじゃ。
           

   そして、感謝の気持ちの中、完ぺきな自分に戻れるんじゃよ。
   小さな自分にとらわれすぎていたことに気付くんじゃ」
       

  「もし、気付かなかったら?」
        

 「気付くまで、つらいことや悲しいことが続くんじゃ。次から次へと」
        

 「え~~!!やだーー!!もし、途中で寿命が来て死んじゃったら??」
       

 「生まれ変わっても、災難が続くんじゃ」
       

 「やだやだやだ~~~」
       

 「でも、普通は気付くもんじゃから、心配はこれっぽっちもいらんのじゃよ」
       

 「そうなんだ・・、でも、気付くように、こころがけようっと!!」
       

 「俺も!!」
        

 「がんばろうね、みんな」
       

 「なんか、超しあわせな気分になってきた、なんでだろ」
       

 「本当の自分が、今まで、

  ずーーっと気付いてくれるのを待っておったんじゃよ。
  自分の内側から、一人で一生懸命に喜びと幸せと

  感謝の光を生み出しながらな・・
  その自分に気付いたことで、自分自身が喜んでおるんじゃよ」
        

 

 「ああ、なんか、自分にすっごい"ありがとう"って言いたいなー!」
       

 「ははは。言えばいいんじゃよ」
       

 「照れくさいなーー。

  でも本当に、今まであたしを助けて見守っててくれた自分にお礼が言いたい。
  ・・・ありがとう!!」
       

 「俺も言おう。
  希望とか嬉しい気持ちとか作ってくれてたんだな。ありがとうな」
       

 「なんか、すっごい自分が喜んでる気がする!
  だってこんなにウキウキするんだもん!!
  しあわせがこころいっぱいに広がってる!!」
          

 

 「やっと会えたね、って言ってる気がする。
  気付いてくれてありがとうってお礼言われてるみたい!
  へんなの! でもなんか超しあわせ」
        

 

 「じゃあ、そろそろ行こうか、みんな」
       

 「そうだね、ありがとう先生!!」
       

 「こちらこそ、ありがとう。みんなの素直な心はこの世の宝じゃよ。
  気をつけて帰るのじゃよ」
       

 「はーーーい!!」
       

 

 「先生、さようならーー!! さー行こうぜーー」
      

  三人はとびきりの笑顔で、走っていった。
        

  先生は、優しい瞳でだんだん小さくなっていく彼らを
  いつまでも見つめ、柔らかいひげをなでていました。

ふしぎなお話 第二話

 

 

受験も迫ってきたある日の朝、今日も子ども達は元気にあいさつを交わしています。
         
「おはよー!愛ちゃん」
         
「おはよーー。・・あれ? 幸ちゃん、右目のとこになんかついてるよ」
         
「えっ、ほんと? 愛ちゃん手鏡持ってる?」
         
「うん、持ってるよ。ちょっと待ってね」
         
愛ちゃんはカバンから、ピンクの小さな手鏡を取り出しました。
         
「はい」
         
「ありがとう。あ、ほんとだ。・・とれた?」
         
「うん、とれたとれた。オッケー」
         
「この手鏡、かわいいね。どこで買ったの?」
         
「家の近くの雑貨屋さんだよ。かわいいでしょ」
         

そこへ先生がやってきて、ふたりの肩に手をおいて言いました。
         
「おはよう、愛ちゃん、幸ちゃん」
         
「あ、おはようございます先生! 
先生見て、この手鏡。かわいいですよね」
         
「ほんとうじゃのぅ・・」
         
先生は優しい目でしばらくその手鏡を見つめてから、静かに言いました。
         
「鏡は便利なものじゃのぅ。自分を正しくうつしてくれる・・」
         
「そうですね~」
         
先生は手鏡から視線をはずして、
周りの景色をながめながら言いました。
         
「今、周りにいる人たち、起こってる現象、これらもすべて自分の鏡なのじゃよ」
         
「え??」
         
愛ちゃんも幸ちゃんもきょとんとした表情で先生を見ています。
         
「見てごらん」
         
先生に言われ、二人は周りを見渡してみました。
         
         
教室の入り口のところで、男の子と女の子が仲良くお話しています。
         
「わ~~、あの二人って付き合ってるって噂だよねー。
なんか嫌だな、人前でイチャイチャして・・」
         
「え?幸ちゃんはそう思うの? 
私、すごく楽しそうだなーって、
二人の楽しそうな姿見てワクワクしちゃったよ」
         
先生は何も言わず、
小さくうなずきながら優しい瞳で二人を眺めています。
         
「幸ちゃんさぁ・・・、
もしかして、ちょっと嫉妬してるの?」
         
「うるさいなー。ちがうよ~!・・・」
         
と言って、幸ちゃんはしばらく黙りこみました。

それから小さく低い声で言いました。
         
「うん・・そうだね。
正直言うと、このいや~な気持ちは・・
嫉妬なのかもしれない」
         
「幸ちゃんの心の中にある嫉妬というものが、
鏡にうつされたのじゃよ。
            
心の内側に嫉妬があれば、
嫉妬するような現象が起こるのじゃ。
            
反対に、愛ちゃんの心には、
楽しさがあるということじゃな。
            
その楽しさが鏡にうつされて、
楽しいと思える現象が起きたのじゃ」
         
「そうなんだ・・・」
         
「そうだよね。
目の前で起こってることは同じことなのに、
楽しいって愛ちゃんは感じたけど、
私は・・いやなことが起きたって思ったもん。

自分たちの心の内側次第なんですね、先生」
         
「そうじゃよ。
じゃあもし・・鏡を見たときにネクタイが曲がっていたら、どうするかね?」
         
「え?直しますよ、ネクタイ。ふつーに」
         
「鏡の方をかね? 
それとも自分自身のネクタイをかね?」
         
「もちろん自分自身のネクタイですよーー。
鏡の方を直そうと思っても変えられないもーん。
コツンって当たって触れないし。
先生、おもしろいこと言うな~。あはは」
         
先生も、細い目をより細くして微笑んでいます。
         


でもただ一人、幸ちゃんはまじめな顔でなにやら考えてる様子。
         
そして、ゆっくり言いました。
         


「先生・・、それってもしかして、
周りで起きたことを変えようと思っても
変えられないってことですか?


自分の内側を先に変えないと、
周りの現象は変わらない・・って・・」
         
先生は幸ちゃんをまっすぐ見つめて言いました。
         


「その通りじゃ。
自分の心に不満というものがあれば、
外の世界にも不満な現象を見ることになる。
            
自分の心に怒りがあれば、
外の世界に怒りの現象を見ることになる」
         
「たしかに~! 
だって、心が悲しいときって、
何見ても"ああ悲しい~"って思うもん。
            
自分って超不幸~~って思ってさ・・。
それって、私の心の中に
悲しみがあるからだったんだ」
         
「そうじゃな・・。
そして、自分の心に否定があれば、
外の世界にも否定の現象を見る・・。
それが本当は良い出来事であっても、
否定的にうつるのじゃ。自分の心に」
         
「もったいないね」
         
「自分の内なる心の戦争は、
やめた方がいいんじゃよ・・。
            
自分の心が喜びと平和になれば・・」
         
「あたし、周りの人とか出来事に対して、
あーだこーだって文句言う前にさ、
自分の心の内側に意識を持ってくようにしてみるよ!


そして、自分の心の内側が"喜び"になるようにしてみる!」
         
「嬉しいこと起こるほうが楽しいもんね!
            
あたしも自分の心の中、楽しみでいっぱいにしよっと!楽しいこと大好きだもん!
            
楽しいこといっぱい起こるの、超楽しみ!
            
あ、もう心の内側が楽しくなってきた!
わくわくする」
         
「先生に教えてもらえてよかったな。
自分以外のものはすべてみ~~~んな、
自分の鏡なんだね」
         
「そうじゃ。
もし自分を批判してくる人がいて、いやな気持ちになったとしても、


それは自分の心の中に"人を批判する心"がありますよと

その鏡が教えてくれてるだけのことなのじゃよ」
        
「そっかー!その人を憎んでも何も現象は変わらないんだね。
            
批判する心を自分が持ってるから気をつけよう、って思えて鏡に感謝できたら、
外の世界でも感謝できることが、どんどん起こりだすんだね。
            
よかった~。いいこと知れて。
あーしあわせ・・。 


なんか、こうやって今、みんなとしゃべってることも幸せに感じるよ。


そういえば今日の一時間目は、
あたしの好きな歴史じゃん! あーー幸せ~~」
         


「よかったね! あ、そろそろ行かなきゃ。 
先生、ありがとうございました~~」
         


先生はとても嬉しそうにうなずいています。
         

「自分をとことん愛してあげるのじゃよ。
            
そして、とことん自分を信じ、
大好きになってあげるのじゃ・・。
            
自分を愛情いっぱいに抱きしめて、
そして自分に感謝するのじゃよ・・」
         
「はーーーーい!! いこ、幸ちゃん!」
         

歩きだした二人の姿を、
先生はずっと見つめています。
         

幸ちゃんがふと歩くのを止めて愛ちゃんに言いました。
         
「・・・今ね、すごいいいこと思いついたよ!」
         
「なになに??」
         
「私の心の内側が平和でいっぱいになったらさ、世界の戦争もなくなるかな!」
         
愛ちゃんが目を輝かせて言いました。
         
「それいい考えだね!! あたしも協力したい!」
         

笑顔で二人が教室に入っていったとき、
ちょうどチャイムが鳴りました。
         
まるで平和の鐘のように、愛としあわせに満ちた響きでした。

日没
柴犬
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